<< 話を聞くということ | main | アイスブレイク >>

ジム・ホール

 




「いま特別に聴きたい音楽はないけど音楽を耳にしたい…」って感じるとき、まずこれを引っ張り出して聴くことが多々あります。学生時代に輸入レコード屋でアルバイトをしていたとき、ジャケットを見て「臼杵の石仏みたいだな…」と思いつつ、店長に聞いてみろよと言われ、針を落とすと、電化され作られたサウンドを意識してしまうアルバム全盛時にあって、久しぶりにコンボ・ジャズ(少人数編成のバンド)の妙に鳥肌が立ち、その日に店の中で4、5回かけて、今でもそれぞれメンバーのアドリブ・パートまで口ずさむまでになったほど、今でもメモリアル的なレコードです。


一度はどこかで耳にしたロドリーゴのアランフェス。原曲は、「ギターとオーケストラのための協奏曲」といいれっきとしたクラシック音楽。ジャズの世界では60年代にマイルス・デイヴィスがスケッチ・オブ・スペインというアルバムで、名アレンジャーのギル・エバンスを迎えて、マイルスのトランペットとオーケストラの対比に重点を置いた、アランフェス協奏曲を発表していました。マイルスには重々しさと、ある面での余所余所しさが曲全体に広がり、何気なくふらっと聴けるような音楽ではなく、意識的に音楽と対峙しないといけないような雰囲気さえありましたが、ジム・ホールのそれは、一定の進行の中でテーマがあり、ソロ、テーマ、ソロとシンプルに続く、忘れられてしまったジャズの楽しさが十分に伝わる聴きやすいものです。

 

メンバー・クレジットは、ドン・セベスキーのアレンジメントに、ジム・ホールのギター、ポール・デスモンドのアルト・サキソフォン、チェット・ベイカーのトランペット、ロン・カーターのベース、スティーブ・ガッドのドラムス、ローランド・ハナのピアノ、です。クレジットされている中では、ローランド・ハナだけは過去に情報がなく初めて聞く名前で、ましてや輸入盤でしたから詳細な解説などなく、これだけのメンバーなのだから物凄い音楽なのだろうという期待感が先走り、果たしてその気持ちを裏切らないものでした。ジム・ホールはビル・エバンスとのインタープレイなど、才能あふれるプレイを聞かせるギタリストです。サイドメンに徹していた時代が長いので、実力があるのにリーダーアルバムが少ないのも彼の性格を知る要素なのです。ポール・デスモンドは、日本でも大ヒットしたデイブ・ブルーベックが発表した「テイク・ファイブ」のアルト奏者です。以前からメローな音色が特徴でしたが、ここではメローさに加え、絵画で言えば油絵ではなく墨絵に近い感覚と言いますか、くすんだような渋い音色を響かせています。トランペットは麻薬に耽溺して身を滅ぼしそうになったチェット・ベイカー。淡々と吹いているソロパートは、印象と違い重く柔らかい竹でガラスを切り刻んでいくような鋭ささえあります。アルトもペットも、全体的に感情を抑え演奏され、いっそうのクールさが引き立ちます。ガッドのリズムの切り刻み方もシンプルですが、計算された迫力があります。マーチングバンドの太鼓のようにスネアを何度も滑らせ程よいアクセントに聞こえます。多くのジャズコンボで、またロックバンドの経験もあり、そのリズム感、テクニックは、この当時この音の調律の仕方はガッドだ!と思えるほど特異な音でした。

 

どの条件を考えてもこのLPが売れる要素はいっぱいありました。事実、CTIレーベルでは最高の売上を作りましたから。イージー・リスニングのカテゴリーではなく軽いながらも独特の重厚さのあるジャズ音楽とはこういうものを指すんでしょうね。プレイヤーの経験値と生きてきた人間力がものをいう優れたセッションです。



コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
トラックバック
calendar
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>
selected entries
categories
archives
recent comment
recommend
links
profile
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM